導入前に抑えたいマーケティングオートメーションの成功&失敗事例

導入前に抑えたいマーケティングオートメーションの成功&失敗事例

マーケティングオートメーションとは顧客管理や顧客育成などのマーケティングプロセスにおいて、これまで人の手でおこなっていたアクションを自動化するツールのことを指します。日本では名前ばかりが先行しているので、何をどう自動化してくれるかについて理解することが非常に難しい思います。

そこで本稿では、具体的な成功事例/失敗事例の紹介を通してマーケティングオートメーションがもたらす自動化について解説していきます。

「見込み客データベースの管理強化」「マーケティング機能の強化」「OnetoOneマーケティングの実現」などのフレーズで導入を悩んでいる方はぜひご覧ください。

マーケティングオートメーションとは

マーケティングオートメーションの機能

マーケティングオートメーションは、メールやeBookダウンロードなどの指標からのリードスコアリングや、リードの属性に合わせてWEBコンテンツの出し分けなどを可能にするツールです。

デジタルマーケティングにおける役割や期待できる効果については「マーケティングオートメーションとは」で詳しく紹介していますので、合わせてご覧ください。

マーケティングオートメーションの市場規模

国内でのMA市場規模(事業者売上高ベース)は2014年で168億円、2015年は220億円の見込みとなっており、2020年には420億円に到達すると試算されています。

ちなみに、調査データの発表元によって市場規模に違いがあるのは、マーケティングオートメーションという市場をどのように定義しているかによって範囲が変わることが原因です。

海外での市場規模との比較など、詳しくは「マーケティングオートメーションの市場規模と今後」をご覧ください。

マーケティングオートメーションの理解の難しさ

マーケティングオートメーションは効果的な扱いが非常に難しいマーケティングツールです。それぞれの機能の説明やメリットを読んだとしても、今一つ理解が深まらないのは、ツールの活用にはWebマーケティングやメールマーケティングをはじめとした、個々のマーケティングノウハウが必要だからです。そこで具体的に理解していただくために、実際にマーケティングオートメーションを導入した成功事例と失敗事例の紹介を通して説明していきます。それぞれの事例を読み、何がマーケティングオートメーションの成功要因で、何が失敗要因なのかを理解した上で、自社のマーケティング業務にはにはどんな機能や役割が必要なのかを考えていきましょう。

ファッション通販サイト「マガシーク」の成功事例

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概要

マガシークは2000年に『女性ファッション誌に掲載されている商品を購入できるサイト』というコンセプトのもとに運営を開始しました。「マガジン(雑誌)+シーク(探す)」というように、サービス名にもそのコンセプトが表れています。2013年の3月期には、約200万人の会員と112億円の売上規模にまで成長を遂げ、NTTドコモと共同で通販サイト「dfashion」の運営なども行っています。

導入前の課題

2007年頃から雑誌販売の低迷とともにマガシークの売上も下降したことで、『雑誌で見た商品を買う』から『自分のためのセレクトショップ』へとコンセプトを転換しました。この方針転換によりコンテンツが大きく変わったことから、集客や販促などのWebマーケティングにおいても自社で問題解決に取り組む必要が出てきました。

当時は競合サイトも乱立し、販売する商品も同じような商品が多く、ユーザーからは違いが分かりづらいサイトとなっていました。また、サービスも送料無料やポイント付与など横並びの施策が並んでおり、他社が行っている良さそうな施策は自社でもすぐ取り組むといった状態が続いていました。この状況を打破すべくマガシークで考えた差別化はOne to Oneマーケティングで顧客と向き合うことでした。メールマーケティングを使い、リピート購入率を改善するという課題に取り組んだのです。

マーケティングオートメーションの導入結果

具体的にマーケティングオートメーション(Oracle Responsys)を活用してどのような施策を実施していったのか。例えばですが、カートに商品を入れたままにしている「カート放棄」の顧客に対して、「カートに商品が入ったままですが、何か気になることがありますか」といった通知を送る。また、商品購入者に対して、数日後にアフターケアや商品紹介のメールを送ってマガシークを思い出してもらう。そのユーザーからレスポンスがあれば、更に数日後により詳細なメールを送るというリレーションを取りました。その他にも、顧客が「気になる商品」としてマークした商品の在庫が少なくなったら、「あとわずかですよ」と購買意欲を刺激するようなメールを送ったり、値下がり時に通知してお得感を演出しました。このようなシナリオを社内で作って試しながら、ベストプラクティスを模索していったのです。

「どれも基本的な施策だが、これまでできていなかったことで、非常に高い効果が出ています。Oracle Responsys導入後は、メール経由の集客と売上が2倍以上に増えました。メルマガ購読者のリピート購入率は、未購読者の約1.5倍(49%)になり、新規のお客さまのリピート購入率も、2013年度は前年比で15%アップしました」

(マガシーク株式会社代表取締役社長井上直也氏)

成功要因の分析

マーケティングオートメーションを導入したからと言って、メールマーケティングが最適化され、成果が出るわけではないことはお分かりいただけたかと思います。社内で常にユーザーとの最適なコミュニケーションのあり方を考え続け、それを仮説として実行に移し、ベストプラクティスを模索し続けているところに成功の要因があります。

「リード管理」「セグメンテーション」「スコアリング」「ステップメール」など、マーケティングオートメーションを構成する個々の機能はあくまで道具にすぎません。その道具を使って、どのようにユーザーとの良好な関係を構築していくかは、依然として人の手に委ねられています。その意味では、仮説を構築し、それを検証するというビジネススキルが今後もマーケターにとって重要なスキルであり続けると言えます。

Webサイトの制作会社「株式会社ジーニアスウェブ」の失敗事例

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概要

株式会社ジーニアスウェブは、Webサイトの制作および運用を中心にWebマーケティング全般の戦略コンサルから運用支援サービスを提供している会社です。2006年に設立し、制作会社としては比較的後発の会社であったため、ホームページ更新代行サービスなど同業他社がやりたがらない業務を積極的に引き受けていました。同業他社が避けていたのは、更新業務は手間暇がかかる割に、粗利が小さい仕事のためです。

Webマーケティング全般を支援している会社ではありましたが、集客はインターネットではなく、雑誌広告を通して教材DVDを販売し、見込み客を獲得し、見込み客にホームページ制作を案内する営業手法を取っていました。この方法でクライアント数は200社ほどに拡大しました。ただ、上述の通りホームページ更新代行サービスは競合が少ないので売上は安定していたものの、収益性の低さには悩んでいました。

導入前の課題

マーケティングオートメーション導入の転機は2008年のリーマンショック後になります。

「当時は既存顧客のホームページ更新の要望が急増し、稼働率が30%から80%に急上昇。現場はパンクし、対応スピード、営業精度が落ちました。」

(株式会社ジーニアスウェブ 代表取締役 小園浩之氏)

上記のようなマーケット環境の変化が、単なるホームページ更新代行サービス会社ではなく、顧客のニーズをシステマティックに把握・管理して、需要を掘り起こす営業会社へと転身を迫られるきっかけとしてありました。ところが、肝心の顧客情報については各担当者が個別でエクセル管理をしているような状況であり、顧客情報を効率的に一元管理できるような状態ではありませんでした。情報が散在しているだけではなく、顧客へのヒアリング情報やコンタクト履歴も不十分なままで、リピート営業をするのも一苦労な状態でした。そうした課題を解決するために、効率的な顧客管理を目的にマーケティングオートメーションを導入しました。

マーケティングオートメーションの導入結果

効率的な顧客管理を目的に導入を進めたはずのマーケティングオートメーションですが、当時は上手く機能しませんでした。当たり前ながら散在しているデータを改めて入力し直したり、新規獲得した情報を定期的に入力する必要があったにも関わらず、それが徹底できていなかったからです。

これは経営側から現場にデータ入力の文化や習慣を浸透させることができなかったことに原因があります。せっかくマーケティングオートメーションという箱を用意しても、その箱の中にデータを入力できなければ、顧客の状況が把握できず、結局は以前と何も変わらない日々が続いているだけでした。顧客も困り続け、競合他社に顧客を奪われてしまいました。

失敗要因の分析

「顧客データベースは箱として用意したが、データの出入りがないなど、運用を十分に検討・実施できておらず、運用が甘かった」

(株式会社ジーニアスウェブ 代表取締役 小園浩之氏)

という代表の言葉に集約されると思います。本来であれば既存顧客のデータを適宜適切に入力していくことで、顧客をカテゴリや過去の履歴やコンタクト内容で分類・抽出できるようになり、その結果、営業効率は高まるはずでした。ところが入口のデータ入力でつまずいてしまったため、その後の顧客管理や顧客育成などのマーケティングオートメーションの各種メリットを活かしきれない状況を生んでしまったのです。

その後の改革

「入力こそ仕事である」逆に入力さえすれば顧客との関係を維持し、成長できる可能性が高いということを小園氏は社内に周知徹底しました。まずはシステムを使う前の、システムを利用する社員の意識改革から手を付けたわけです。マーケティングオートメーションというシステムを導入するだけで全てが変わるわけではなく、システムの成功はそれを利用する人間によって左右されるという事実を組織全体に浸透させていったわけです。

そうした地道な意識改革もあり、今では顧客情報や商談情報を細かく管理するだけでなく、営業プロセスも効率化・標準化されるようになりました。具体的には、システム上で新規商談が作成されると、アポ取りや訪問予定といった、営業担当の次のタスクが自動登録されていくなどです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

マーケティングオートメーションという言葉を額面通り受け取ってしまうと、マーケティングの何もかもを自動化してくれるイメージがありますが、自動化するのはパターンに応じた「実行」作業が中心です。

戦略や目標設定など、上位のマーケティング業務はまだまだ人間が行う必要があります。

「マーケティングオートメーションは人が”考える業務”に専念するために、それ以外の作業を自動化してくれるツール」だということを忘れずに運用していきましょう。