勘違いされがちなWEBディレクション5つのケーススタディ
中小企業のWEB制作現場では、広告・印刷会社などに相談が行き、そこからWEB制作会社やフリーランスへ外注されるというシーンを見かけます。時には建築会社やパソコン修理屋さんなど、意外な業種がクライアントと制作会社の間に入ることもあって、WEB業界は裾野が広がりすぎじゃないか広がってるな、と思う今日この頃。
そのせいもあってか近年「実はWEB制作に詳しくないけどディレクションを担当している」というディレクターさん(殆どの場合本業が別ですが)に会う機会が増えてきました。
僕自身ディレクターでもありデザイナーでもあるので耳が痛いところもありますが、このメディアの読者にも「ディレクションがネックで炎上、関係者全員が悲鳴を上げている」なプロジェクトに心当たりがある方は多いのではないでしょうか。
でも実はこれ「正しいと思っていたディレクションが逆効果だった」というケースが多い気がしています。
つい先日も、友人の会社から似たような悲鳴混じりの相談を受けWEBディレクション勉強会を開いてきました。
その時の資料からケーススタディを抜粋したのがこちらのツイート。ありがたいことに思いの他反応があったので、今回は記事として個人的なケーススタディをもう少し紹介していきます。
先日友人の会社から「WEBディレクション分からない!」と相談を受けて作った勉強会資料よりケーススタディを3つ。
— 松永渓佑 / デザインとマーケの人 (@seno_dez) November 5, 2019
初心者向けですけど、フリーランスや駆け出しディレクターさんにも是非チラ見して欲しい。 pic.twitter.com/02r25XCIDj
Contents
「デザイン」ではなく「成果(目標達成)」を売る
制作発注に慣れていない人ほど「カッコいいもの=良いもの」というイメージを持っている方が多いので「デザインのカッコよさ」で進行しようとするディレクターも割といます。
しかし、制作会社が提供しているのはデザインの販売ではなく、クリエイティブで成果につなげるサービスです。
近頃は小学生でも無料ツールでカッコいいデザインが作れる時代なので、制作職は公開後の成果を売ってこそ、ですよね。
ツイートしてる時もモヤモヤしたんですが、正直これはディレクションというか営業ですね。
ただ、この意識こそディレクションをする上での根っこです。
「選ばせる」のではなく「決めるサポート」をする
デザイナーに複数パターンのデザインを指示し、提案の数を並べてクライアントに選ばせるのはディレクターの仕事ではありません。
そもそもデザイナーは試行錯誤して「最高=唯一無二」の形を目指して作り込むものなので、殆どのケースで2案目以降は数合わせで作る「捨て案」です。
どうしても数パターン出さざるを得ない時は「どれが推奨案なのか、なぜ推奨なのか」を添えること。
選ばせるディレクションでは担当者の好みベースの話になりがちで、これがゆくゆく決裁者からの「自分はそれ好きじゃない」というちゃぶ台返しにつながることもあります。
実際WEBに詳しくてもいなくても、クライアントから見ればディレクターがWEBのプロ代表。クライアントがどんな軸で選択・決定すればいいかを判断できるようにサポートするのが仕事です。
もちろん適当に答えるのではなく、制作時点でデザイナーとも相談し認識をすり合わせておきましょう。
「最長」で見積もり、「平均」を目指す
企業にとって「時は金なり」。もちろんどんな施策でも早くできるならそれに越したことはありません。
例えば商談や発注初期にスケジュールを引く時、クライアント受けを意識するあまり「最短」で話を進めてしまうディレクションあるある。
WEB制作はワイヤー、デザイン、コーディング、CMSなどなど、発注後もクライアントとのやりとりや確認を行いながら進行しなくてはいけない作業が盛りだくさんです。
クライアントも通常業務を抱えながらの作業なことが多いので、実際にプロジェクトが始まってみると、主に連絡工数が原因で予定より時間がかかります。
もし余白のないカツカツのスケジュールで進行していたらズレのしわ寄せが原因でトラブルになるのは避けられません。
はじめに「最短」で夢だけを語るのではなく、「最長」で現実を伝え「平均」の進行で無理なく、且つ「思ったより早かった」と感じる進行ができるのが上手なディレクターですね。
「修正方法」ではなく「修正意図」を聞く
修正を行う時は「なぜその修正を行うのか」という“意図”が大事。
「修正方法」で指示を仰ぐディレクションでは、バランスがくずれるような指示でも対応せざるを得なくなりますが、「修正意図」の共有ならデザイナーからもっと効果的な対策方法を提案できるケースも多くあります。
もし「簡単な修正依頼なのに対応に時間がかかる」と感じる時、デザイナーは修正によって崩れるバランス調整にもがいているのかもしれません。
クライアントの希望に沿って制作することはもちろん重要ですが、デザインのプロは制作会社。修正方法での指示・対応が行き着く先は「やってみたらイメージと違った、次これで。」のデッドレースです。
「クライアントの頭の中にあるイメージが正解とは限らない」ことを念頭において意図ベースのディレクションを心がけましょう。
ただし、これはデザイナー側からもデザインの意図をしっかりディレクターに共有することである程度防げるはずの課題とも言えるので、デザイナーもディレクターの言いなりにならず、提案や相談ができる関係を作っておくことが大事ですね。
「できない」はNG、否定は「提案」に変える
クライアントとデザイナーの間に立つディレクターには、双方から「ああしてほしい」「こうしてほしい」と、時には実現が難しい要求が集まります。とはいえ「できない」と突っぱねるだけではトラブルやスケジュールの遅延を招くだけ。
例えば
- 規定回数を超えて修正してほしい→●●円追加いただければ修正できます!
- その納期は実現できない→ページ数・機能が〜の範囲なら実現できます!
のように、必ず「…すればできる」というディレクションができれば、意見は同じでも前向きな印象で伝えられるので、どんなにネガティブ・無茶な内容でも、ポジティブに言い換えられないか考えることが大事です。
まとめ:「窓口」ではなく「管理」する
ここまで個人的に気をつけているディレクションのコツをまとめてきましたが、総括すれば「連絡窓口」ではなく「目標達成に向けた進行管理」を心がけること。
ディレクションの良し悪しは制作側の愚痴話で終わってしまうのをよく目にしますが、世のディレクターも悪気があるわけでは無くむしろ「良かれと思ってやっていた」という、知らなかっただけというケースも多いように感じます。
(特に「修正意図ベースのディレクション」など)
- とにかくクライアントのOKがとれればいい
- クライアント・制作会社の連絡を仲介するだけの伝書鳩状態
- 自分の稼働工数を最小限にするのが何より優先
という広告業界の闇を一身に背負ったような残念ディレクターに出会うこともありますが、分からないことばかりの中で頑張っている世のディレクターさんに、こうした知識が届けばいいな、と思います。